肥満であると糖尿病の前段階でも腎臓に負担がかかっていると判明
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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆9/15 毎日新聞
◆9/19 糖尿病ネットワーク
本研究のポイント
?糖尿病前段階であっても肥満の人は、糸球体内圧が高くなっていることが判明
?糸球体高血圧とアルブミン尿の関連をヒトで確認したのは世界初
?正常アルブミン尿でも糸球体高血圧と関連
?糖尿病研究の最高誌アメリカ糖尿病学会機関誌に掲載!
概要
大阪市立大学大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学 津田昌宏講師、腎臓病態内科学 石村栄治特任教授らの研究グループは、糖尿病前段階かつ肥満である人は腎臓に負担がかかっていることを明らかにしました。
糖尿病の合併症の代表として網膜症、腎症、神経障害があげられます。糖尿病は慢性腎臓病を発症し、透析を導入している患者の原疾患の40%以上を占めています。このような合併症を引き起こさないためには、早期発見?早期治療が肝要です。これまで糖尿病性腎症の前段階であっても腎臓に負担がかかっている可能性は推測されていましたが、実際にヒトで検討することは困難とされていました。
津田講師らの研究グループは、合併症や既往歴、内服歴のない54名の腎移植ドナーを対象にGomezの式※1を用いて肥満度、インスリン抵抗性※2、糸球体内圧※3、アルブミン尿※4の関連性について検討しました。その結果、糖尿病前段階であっても肥満である人は糸球体内圧が高く、腎症の判断基準となるアルブミン尿が多いことが明らかになりました。本研究成果により、糖尿病前段階であっても腎臓への負担を把握することで慢性腎臓病を引き起こす前に防ぐことが期待されます。本研究の成果は、日本時間2018年9月14日(金)14時に「Diabetes Care」に掲載されました。
【発表雑誌】Diabetes Care(IF=13.397)
【論文名】Association of albuminuria with intraglomerular hydrostatic pressure and insulin resistance in subjects with impaired fasting glucose and/or impaired glucose tolerance
【著者】Akihiro Tsuda, Eiji Ishimura, Hideki Uedono, Akinobu Ochi, Shinya Nakatani, Tomoaki Morioka, Katsuhito Mori, Junji Uchida, Masanori Emoto, Tatsuya Nakatani, and Masaaki Inaba
【掲載URL】http://care.diabetesjournals.org/lookup/doi/10.2337/dc18-0718
※1 Gomezの式…血圧、腎血漿流量などから微細血管抵抗を求める式。Gomezの式に必要なGFR測定※4にイヌリンクリアランス、腎血漿流量にパラアミノ馬尿酸の測定が必要となる。
※2 インスリン抵抗性…Matsuda Indexを用いて計算。
※3 糸球体…腎臓の最小構造の主要部をなす血管で、血液をろ過することで尿を作る機能がある。内圧が高くなると、アルブミン尿の出現や腎機能障害の原因となる。
※4 アルブミン尿…糖尿病性腎症の原因となる糸球体内圧の上昇?過剰ろ過により排出されるもので、増加すると血管にまつわる病気や透析のリスクが高まる。30㎎までが正常範囲とされている。
研究の背景
現在、血液透析が必要な末期腎不全患者は32万人を超えています。末期腎不全に至る原因の40%以上が糖尿病です。糖尿病を発症すると、網膜症、腎症、神経障害などの微小血管障害に伴う合併症や、心筋梗塞、脳梗塞などの大血管障害に伴う合併症のリスクがあります。これらの合併症の進行にはインスリン抵抗性が深く関与しています。このような合併症を引き起こさないためには、早期発見?早期治療介入が必要です。
糖尿病性腎症の診断には糸球体ろ過量(GFR)※5とアルブミン尿の測定が必要です。アルブミン尿は糸球体内圧が高くなり、過剰ろ過となることが原因で排出され、その量が多くなると血管にまつわる病気や透析のリスクが高まります。
しかしながらヒトにおいて、アルブミン尿の原因である糸球体内圧を直接測定することは困難であり、また糖尿病患者に合併しやすい高血圧や高脂血症などの動脈硬化性疾患も糸球体内圧に影響するため、純粋に糖尿病の原因となるインスリン抵抗性と糸球体内圧やアルブミン尿の関連性を検討することは困難とされていました。
津田講師らの研究グループはこれまで腎機能を正確に測定するイヌリンクリアランス(GFR)※6やGomezの式を用いることで、腎微小血管抵抗※7を評価し、さまざまな臨床指標と腎微小血管抵抗との関連性を検討してきました。また、合併症や既往歴、内服歴のない腎移植ドナー候補者※8に対しても腎機能を正確に評価するため、イヌリンクリアランスおよび糖代謝異常の有無を検出するための75gOGTT※9を施行してきました。そこで、合併症のない腎移植ドナー候補者のインスリン抵抗性と腎微小血管抵抗、アルブミン尿との関連性を検討することで、糖尿病や腎症の発症前にインスリン抵抗性と糸球体内圧およびアルブミン尿の関連性を検討することを可能にしました。
※5 糸球体ろ過量(GFR)…一般的には採血で得られたクレアチニン(Cr)と年齢、性別から計算して算出されたeGFR(estimated GFR)を使用。
※6 イヌリンクリアランス…GFRを求めるための検査で、GFR測定のゴールドスタンダードである。
※7 腎微小血管抵抗…糸球体内圧やろ過係数、血圧、血清総蛋白、GFR、PRF※9からGomezの式を用いて算出。
※8 腎移植ドナー候補者…インスリン抵抗性が高くても糖尿病を発症していなければ、腎移植ドナーとなることが可能。
※9 75gOGTT…糖尿病の診断に使われる検査。絶食下で75gのブドウ糖を内服したあと、検査前と内服後2時間まで30分おきに血中の糖分とインスリンの濃度を測定。
研究内容
目的
糖尿病の前段階におけるインスリン抵抗性と糸球体内圧およびアルブミン尿の関連を検討
対象
合併症、既往歴、内服歴、喫煙歴がなく、正常アルブミン尿の腎移植ドナー候補者54名(男25名、女性29名)
方法
合併症のない腎移植ドナー54名を肥満の有無、糖代謝異常の有無の組み合わせで4つのグループ【Group1(肥満なし、糖代謝異常なし)26例、Group2(肥満あり、糖代謝異常なし)5例、Group3(肥満なし、糖代謝異常あり)12例、Group4(肥満あり、糖代謝異常あり)11例】にわけて比較検討しました。糸球体内圧を測定するためにGomezの式を用いました。Gomezの式に必要な糸球体ろ過量を測定するためにイヌリンクリアランス(GFR)測定、腎血漿流量を測定するためにパラアミノ馬尿酸クリアランス(PRF)※10測定を行いました。
結果
肥満および糖代謝異常が両方ある群(Group4)では尿中アルブミン、糸球体ろ過係数※11、糸球体内圧がいずれも高い状態でした。また、肥満の程度を示すBMIおよびインスリン抵抗性(Matsuda Index※12を用いて計算)と糸球体内圧(Pglo)が強い関連性を示していただけでなく(図3)、正常範囲内のアルブミン尿とBMI、インスリン抵抗性、糸球体内圧との間にも強い関連性が示されました(図4)。年齢、性別、血圧などで補正しても同様の結果でした。この結果は、糖尿病の前段階(境界型糖尿病)であっても肥満がある場合は、糸球体内圧が高値(糸球体高血圧)となり、アルブミン尿が多いことを示します。
※10 パラアミノ馬尿酸クリアランス(PRF)…腎臓への血漿流量を正確に測定する検査。
※11 ろ過係数…腎血漿流量(RPF)の中からどの程度糸球体ろ過が行われているかを示し、過剰ろ過の指標となる。
※12? Matsuda Index…75gOGTTの検査で求めた血中の血糖とインスリン濃度から算出。
本研究より明らかになったこと
?糖尿病の前段階(境界型糖尿病)であっても、インスリン抵抗性が糖尿病性腎症の原因である糸球体内圧と関連しているとわかりました。
?糸球体内圧とアルブミン尿が関連していることをヒトで初めて示しました。
?アルブミン尿が一般的にいわれている正常範囲内であっても糸球体内圧と関連していると明らかになりました。
今後の展開について
糖尿病前段階においてアルブミン尿やインスリン抵抗性、糸球体内圧が高い人の腎臓の予後を検討していきます。形態学(病理学)的な変化との関連性についても検討していきます。腎臓提供後のドナーの健康管理についても引き続き、長期的に検査を実施します。
資金について
本研究は大阪腎臓バンク財団からの腎疾患研究助成の支援を受けて行いました。